清原達郎とはどんな人物か
清原達郎氏は、日本の投資業界において伝説的な存在として知られています。そのキャリアは、1981年に東京大学教養学部(国際関係論)を卒業したことから始まりました。同年、野村證券に入社し、海外投資顧問室に配属され、早くから国際的な金融の世界に身を置きました。その後、更なる専門知識の習得を目指し、スタンフォード大学で経営学修士号(MBA)を取得しました。1986年には野村證券ニューヨーク支店に配属され、国際金融の現場で経験を積みました。
1991年、清原氏はゴールドマン・サックス証券東京支店に転職し、その後もモルガン・スタンレー証券、スパークス投資顧問といった名だたる金融機関を渡り歩きました。これらの経験を通じて、多様な投資戦略やリスク管理の手法を習得し、独自の投資哲学を磨き上げていったと考えられます。そして1998年、清原氏はタワー投資顧問に入社し、基幹ファンドである「タワーK1ファンド」を立ち上げました。このファンドの運用を通じて、彼はその卓越した投資手腕を発揮し、「伝説のサラリーマン投資家」としての地位を確立していきます。
2005年に発表された最後の高額納税者名簿(長者番付)において、清原氏は全国トップに輝きました。これは、彼が2004年の所得に対して約37億円もの所得税を納めたことによるものであり 、サラリーマンとして初の日本一という偉業を成し遂げ、その名が広く知られるようになりました。彼が運用したタワーK1ファンドは、25年間で9300%という驚異的なリターンを記録しましたが 、2023年にその運用を終了し、清原氏はタワー投資顧問を退社しました。
著書「わが投資術」
清原達郎氏が2024年3月1日に講談社から出版した初の著書「わが投資術 市場は誰に微笑むか」は 、発売前から大きな話題を呼び、たちまち重版を重ね、24万部を超えるベストセラーとなりました。
本書を執筆した背景には、清原氏が咽頭がんによって声を失い、引退を決意したことがあります。後継者がいないことから、長年にわたり培ってきた投資のノウハウを世の中に伝えたいという強い思いが彼を執筆へと駆り立てました。特に、2024年から始まった新しいNISA制度は、個人投資家にとって有利な機会であると考え、自身の投資術を広く伝えることが使命だと感じていたようです。
「わが投資術」は、清原氏がヘッジファンドマネージャーとして成功するまでの道のりや、その独自の投資哲学を余すところなく語っています。本書の中心的なテーマは、「割安小型成長株」への投資の有効性です。25年にわたるタワーK1ファンドの運用実績を振り返りながら、成功例だけでなく失敗談も赤裸々に語られており 、読者にとって実践的な学びが得られる構成となっています。また、REIT(不動産投資信託)への投資戦略や、ショート・ペアトレードといった高度な投資手法についても解説しており 、投資家が陥りやすい誤りについても警鐘を鳴らしています。
本書は、長年のプロとしての経験に基づいた深い洞察に満ちていますが、個人投資家に向けて平易な言葉で書かれており 、投資初心者から上級者まで幅広い層にとって有益な内容となっています。その分かりやすさと実践的なアドバイスが、多くの読者の支持を集め、ベストセラーとなった要因と言えるでしょう。
清原達郎の核となる投資哲学
清原達郎氏の投資哲学の中核には、市場に対する独立した視点を持つこと、そして多数派とは異なる「少数意見」の中にこそ利益の機会が潜んでいるという考え方があります。もし自身の意見が他の多くの人と同じであれば、それは有望な投資アイデアとは言えないと彼は指摘します。常識にとらわれず、他の投資家が見過ごしている、あるいは誤解している割安な企業を見つけ出すことが重要だと考えています。
彼の投資戦略の根幹をなすのは、「割安小型成長株」への投資です。これは、市場で過小評価されているものの、将来的に高い成長が期待できる小型株に焦点を当てる戦略です。割安であると同時に成長性を持つ企業に投資することで、リスクを抑えながら高いリターンを目指すという考え方です。
清原氏は、株式投資において才能は存在せず、重要なのは自身の失敗からどれだけ学んだかであると強調します。投資においては常に謙虚さを持ち、自分が知らないことがあるということを認識することが大切だと説いています。自身の著書においても、過去の成功談だけでなく失敗談も率直に語ることで 、読者に対してより現実的な視点を提供しようとしています。
また、清原氏が投資判断において非常に重視するのが、企業の「ネットキャッシュ」の状況です。ネットキャッシュとは、企業が保有する現金同等物と、簿価で売却できる資産の合計から、負債総額を差し引いたものです。この数値が高い企業は、実質的に非常に割安であると彼は考えています。
投資手法の解説
銘柄選定の基準
清原達郎氏の銘柄選定の中心となるのは、前述の通り「割安小型成長株」です。具体的には、時価総額が比較的小さい企業でありながら、市場で過小評価され、かつ将来的な成長の可能性を秘めている銘柄を探します。
株価の割安度を測る指標として、清原氏は独自の観点から定義した「ネットキャッシュ比率」を非常に重視しています。その計算式は、(流動資産 + 投資有価証券 × 70% - 負債総額)を時価総額で割ったものです。投資有価証券を70%で評価するのは、税金などを考慮するためです。この比率が1を超える場合、「会社がただで買えるほど割安」であると彼は見ています。
PER(株価収益率)も割安度を判断する上で参考にしますが、PBR(株価純資産倍率)については、評価基準としてはあまり役に立たないと指摘しています。ただし、PERについては10~15倍程度の銘柄に注目していたとされています。
定量的な分析に加えて、清原氏は企業のビジネスモデルや競争環境、そして何よりも経営者の質と将来へのビジョンを重視します。企業の成長には、経営者が強い意志を持ち、それを共有できる優秀な部下がいることが不可欠であると考えています 。実際に投資を検討する企業に対しては、経営者の経歴や言動などを詳細にチェックし、企業のミッションやビジョンに共感できるかを重視します。
情報収集においては、会社四季報のオンライン版や企業のホームページを積極的に活用しています。オンライン版の四季報は情報量が圧倒的に多く、会社のホームページへのアクセスや、大量保有報告書、適時開示情報などを容易に閲覧できる点を評価しています。
ポートフォリオの構築
個人投資家が約100万円の資金で株式投資を始める場合、清原氏は小型株に10銘柄程度分散投資することを推奨しています。これは、小型株は個別にはバブルになる可能性があるものの、全体としてはバブルになりにくい構造を持っているためです。
一方で、彼自身が運用していたタワーK1ファンドにおいては、徹底的な調査に基づいた上で、有望と判断した企業に集中投資を行うこともありました。これは、分散投資によるリスク低減を図りつつも、高い成長が期待できる銘柄には積極的に資金を投入することで、リターンの最大化を目指す戦略と言えるでしょう。
リスク管理の方法
清原氏のリスク管理において重要なのは、長期的な視点を持つことです。投資した企業の株価が一時的に下落した場合でも、その企業の成長性に対する当初の判断が変わらない限り、売却せずに保有し続けることを推奨しています。
また、市場全体が大きく下落するような局面は、割安な株を購入する絶好の機会と捉えています。実際に、2008年のリーマンショックや2024年8月の市場暴落時にも、積極的に割安になった小型株を買い増し、大きな利益を得ています。
財務体質の健全な企業、特にネットキャッシュが豊富な企業に投資することは、下落リスクを抑える上で重要な要素となります。清原氏がネットキャッシュ比率を重視する背景には、このようなリスク管理の考え方があると言えるでしょう。
主な投資事例と成功例
清原達郎氏の投資手法を具体的に示す事例として、日東工業(6651)への投資が挙げられます 。彼は700円近辺で30万株を購入し、その後株価は1700円台まで上昇しました。現在でもこの株を保有しており、その理由としてPERが9倍以下、PBRが1倍割れ、配当利回りが4%近辺である点を挙げています。これは、彼の提唱する「割安小型成長株」投資の典型的な成功例と言えるでしょう。
また、ニトリ(9843)への初期の投資も彼の成功を語る上で欠かせない事例です。当時、拓殖銀行が保有していたニトリ株の残りの一部を約1億5千万円で買い占めました。その後、ニトリの株価は1年後に3倍、2004年には10倍にまで上昇し、大きな利益を得ています。この投資は、機関投資家が見向きもしない割安な小型成長株を見つけ出し、集中投資するという彼の投資手法の原点を示すものです。
さらに、市場が大きく下落した局面での投資も彼の成功例として挙げられます。2024年8月の暴落時には、100億円以上の資金を投入し、短期間で20億円以上の利益を得ています。これは、市場の短期的な変動に惑わされず、長期的な視点で割安になった優良株を買い増すという、彼の投資哲学を体現するものです。
市場の評価と専門家の分析
清原達郎氏は、その長年の実績と卓越した運用成績から、「伝説の投資家」「伝説のサラリーマン投資家」として広く尊敬を集めています。特に、タワーK1ファンドの25年間における9300%という驚異的なリターンは、彼の投資手腕の高さを物語っています。
彼の著書「わが投資術」も、一般の投資家から高い評価を得ています。分かりやすい解説や、実践的な投資手法が多くの読者に支持されており、投資の考え方や具体的な方法を学ぶ上で参考になるという意見が多く見られます。
特に、彼の提唱するネットキャッシュ比率を用いた割安株の選定方法は、多くの投資家の関心を集めており 、この指標を用いたスクリーニングを試みる投資家も現れています。
ただし、一部の専門家やレビューでは、彼の成功を個人投資家が完全に再現することは難しい可能性や、彼の戦略が大規模な資金を持つ投資家により適している側面があることも指摘されています。また、ネットキャッシュ比率の算出は、個人投資家にとっては必ずしも容易ではないという意見もあります。
投資に関する考え方とメッセージ
清原達郎氏は、投資において最も重要なのは、他とは異なる独自の視点を持つことだと繰り返し述べています。市場の多数派と同じ意見では、大きな利益を得ることは難しいと考えており、常識を疑い、少数派の視点から投資機会を探ることが重要だと説いています。
また、彼は株式投資に才能は必要なく、自身の失敗から学ぶことこそが重要であると強調します 。自身の経験を赤裸々に語ることで、読者に対して実践的な教訓を伝えようとしています。
個人投資家に向けては、小型株への投資、特に割安で成長性のある小型株に注目することを推奨しています。また、市場が暴落した際には、冷静に買い向かう勇気を持つことの重要性を説いています。
引退を決意した今、彼は自身の投資ノウハウを広く世の中に伝えたいという強い思いを持っており 、その集大成として「わが投資術」を著しました。この本を通じて、多くの個人投資家が彼の投資哲学や手法を学び、自身の投資判断に活かすことが期待されます。
まとめ
清原達郎氏は、その卓越した投資手腕と長年の実績により、日本の投資業界における伝説的な存在となりました。東京大学卒業後、数々の外資系金融機関を経てタワー投資顧問で「タワーK1ファンド」を立ち上げ、驚異的なリターンを記録しました。2005年には高額納税者番付で日本一となるなど、その成功は広く知られています。
彼の投資手法は、「割安小型成長株」への投資を中核とし、独自の指標であるネットキャッシュ比率を重視した銘柄選定を行います。また、市場の短期的な変動に惑わされず、長期的な視点を持ち、市場の暴落時には積極的に買い向かうという、逆張りの投資哲学を持っています。
引退後に著した「わが投資術」は、彼の長年の経験と知識が凝縮された一冊であり、多くの個人投資家にとって貴重な学びの機会を提供しています。彼の投資哲学や具体的な手法は、市場で成功するための重要な示唆を与えてくれるでしょう。ただし、彼の成功を完全に再現することは容易ではない可能性も考慮に入れる必要があります。それでも、彼の独立した思考、徹底的な分析、そして長期的な視点は、あらゆる投資家にとって学ぶべき重要な要素と言えるでしょう。
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