株式投資の世界には、数多くの投資戦略が存在しますが、その中でも基本的な二つのアプローチが「逆張り」と「順張り」です。これらの戦略は、株価の動きに対する考え方が全く異なるため、投資初心者の方にとっては、それぞれの特徴を理解し、自身の投資スタイルやリスク許容度に合わせて選択することが重要となります。本稿では、逆張りと順張りとは何かを解説し、それぞれの戦略で用いられる主要なテクニカル指標を紹介することで、初心者の方が株式投資への理解を深める一助となることを目指します。
逆張り投資:市場の逆を行く戦略
逆張りとは
逆張りとは、市場の一般的な流れやトレンドとは逆の方向で売買を行う投資手法です。具体的には、「株価が継続的に下落している局面(下降トレンド)で買い、株価が継続的に上昇している局面(上昇トレンド)で売る手法」です。これは、多くの投資家が売っている時に買い、買っている時に売るという、市場心理の裏をかく投資戦略と言えるでしょう。
逆張り投資家は、市場が過度に悲観的になっている時、株価は本来の価値よりも低く評価されていると考え、買いを入れます。逆に、市場が過度に楽観的な時には、株価は割高になっていると判断し、売りを検討します。この戦略の根底には、市場は常に効率的ではなく、感情的な反応によって株価が本来の価値から乖離することがあるという考え方があります。そのため、逆張り投資家は、短期的な市場の動きに惑わされず、企業のファンダメンタルズ指標(業績や財務状況など)に注目し、長期的な視点で投資判断を行います。
逆張りが有効な相場状況
逆張り戦略は、特定の相場状況下でその有効性を発揮しやすいとされています。
まず、株価が一定の範囲内で上下を繰り返す「ボックス相場」では、逆張りが有効に機能しやすいとされています。このような相場では、株価が下限の価格帯まで下落したところで買い、上限の価格帯まで上昇したところで売るという戦略が考えられます。
また、市場全体が大きく下落した局面や、個別の銘柄が一時的な悪材料によって大きく売られた局面でも、逆張りは有効となる可能性があります。このような時、ファンダメンタルズ指標が依然として良好な企業であれば、株価は一時的な過剰反応で下落していると考えられます。逆張り投資家は、このような局面で割安になった株を買い集め、市場のセンチメントが回復するのを待つことで、大きな利益を狙うことができます。ウォーレン・バフェット氏の「他人が貪欲になっているときは恐る恐る、他人が恐れているときは貪欲になれ」という言葉は、まさに逆張り投資の考え方を表しています。
逆張り投資で用いられる主要なテクニカル指標:5選
逆張り戦略を実行するにあたっては、市場の過熱感や売られすぎの状態を判断するために、様々なテクニカル指標が用いられます。ここでは、代表的な指標を5つ紹介します。
- 相対力指数(RSI): RSIは、株価の売られすぎや買われすぎの状態を示す代表的な指標の一つです。一般的に、RSIが30%以下であれば売られすぎ、70%以上であれば買われすぎと判断されます。逆張りトレーダーは、RSIが売られすぎの水準に達した際に買いのシグナルと捉え、買われすぎの水準に達した際に売りのシグナルと捉えることがあります。さらに、株価が下落しているにもかかわらずRSIが上昇している(ブルダイバージェンス)、あるいは株価が上昇しているにもかかわらずRSIが下落している(ベアダイバージェンス)といったダイバージェンスは、より強い反転のシグナルとなる可能性があります。また、RSIが一旦30%以下に下落した後、再び30%を超えて上昇するブル失敗スイングや、70%以上に上昇した後、再び70%を下回って下落するベア失敗スイングも、トレンド転換の強力なシグナルとして認識されます。
- ストキャスティクス: ストキャスティクスも、RSIと同様に株価の売られすぎや買われすぎの状態を判断するために用いられる指標です。一般的に、20%以下であれば売られすぎ、80%以上であれば買われすぎと判断されます。ストキャスティクスには、%Kと%Dという2本のラインがあり、これらのラインが売られすぎの領域でクロスアップした場合(%Kが%Dを下から上に抜ける)は買いのシグナル、買われすぎの領域でクロスダウンした場合(%Kが%Dを上から下に抜ける)は売りのシグナルと解釈されます。また、株価が新たな安値を更新したにもかかわらず、ストキャスティクスが安値を更新しない(ブルダイバージェンス)、あるいは株価が新たな高値を更新したにもかかわらず、ストキャスティクスが高値を更新しない(ベアダイバージェンス)といったダイバージェンスも、トレンド転換の兆候として注目されます。
- ボリンジャーバンド: ボリンジャーバンドは、移動平均線とその上下に標準偏差に基づいて描かれた帯で構成されており、株価の変動幅(ボラティリティ)を示します。逆張りトレーダーは、株価が上限のバンドにタッチまたは超えた場合を「買われすぎ」、下限のバンドにタッチまたは下回った場合を「売られすぎ」と判断し、価格が中心の移動平均線に戻る動き(ミーンリバージョン)を期待して取引を行うことがあります。これは「ボリンジャーバンド・バウンス」と呼ばれる戦略です。また、バンド幅が極端に狭まった状態(スクイーズ)は、その後大きな価格変動が起こる可能性を示唆しており、逆張りトレーダーは、価格が一旦バンドの外に出た後に反転する動きを捉えようとすることがあります。
- MACD: MACDは、短期の移動平均線と長期の移動平均線の乖離を利用して、株価のトレンドやモメンタムの変化を捉える指標です。MACDラインとシグナルラインのクロスは、一般的な売買シグナルとして用いられますが、逆張りトレーダーは、株価が上昇しているにもかかわらずMACDが下降している(ベアリッシュダイバージェンス)、あるいは株価が下落しているにもかかわらずMACDが上昇している(ブルダイバージェンス)といったダイバージェンスに注目します。これは、価格とモメンタムの方向性が逆行していることを示唆し、トレンドの転換が近い可能性を示唆します。また、MACDヒストグラムがゼロラインから大きく乖離した状態は、トレンドが過熱している可能性を示唆し、反転の兆候となることがあります。
- プット・コール・レシオ: プット・コール・レシオは、株価指数オプションのプット(売る権利)の取引量とコール(買う権利)の取引量の比率を示す指標で、市場全体の投資家心理を測るために用いられます。一般的に、レシオが高い(プットの取引量が多い)場合は、投資家が弱気になっていると考えられ、逆張り投資家にとっては買いのチャンスと捉えられることがあります。逆に、レシオが低い(コールの取引量が多い)場合は、投資家が強気になっていると考えられ、逆張り投資家にとっては売りのチャンスと捉えられることがあります。極端なプット・コール・レシオは、市場が過度に悲観的または楽観的になっている可能性を示唆し、反転のシグナルとなることがあります。
順張り投資(じゅんばり):トレンドに乗る戦略
順張りとは
順張りとは、株価の方向性(トレンド)に沿って売買を行う投資手法です。基本的には、「株価が継続的に上昇している局面(上昇トレンド)で買い、株価が継続的に下落している局面(下降トレンド)で売る手法」です。相場が上昇傾向にあるタイミングで、さらに値上がりすると考えて株を購入する方法であり、「トレンドフォロー」とも呼ばれます。
順張り投資家は、株価が一旦上昇し始めたことを確認してから買いを入れるため、購入のタイミングを比較的掴みやすいと考えられます。また、トレンドが続く限り利益を上げやすいという利点があります。この戦略の背景には、株価には一度形成されたトレンドが一定期間継続する傾向があるという考え方があります。そのため、順張り投資家は、テクニカル分析などを活用してトレンドの初期段階を捉え、その流れに乗っていくことを目指します。
順張りが有効な相場状況
順張り戦略は、市場に明確なトレンドが発生している状況下で特に有効性を発揮します。
特に、株価が長期間にわたって上昇基調にあるような強い上昇トレンドの初期段階で買いを入れることが、大きな収益を得るためには重要となります。このような状況では、一旦上昇トレンドが形成されると、多くの投資家がその流れに乗ろうとするため、株価はさらに上昇する可能性が高まります。順張り投資家は、このようなトレンドの勢いに乗り、利益を積み重ねていくことを目指します。
また、個別銘柄だけでなく、市場全体が上昇トレンドにある時や、特定のセクターが成長期に入っているような場合にも、順張り戦略は有効と考えられます。このような状況では、市場全体の勢いやセクターの成長に乗ることで、比較的安定した利益を期待することができます。
順張り投資で用いられる主要なテクニカル指標:5選
順張り戦略を実行するにあたっては、トレンドの方向性や強さを判断するために、様々なテクニカル指標が用いられます。ここでは、代表的な指標を5つ紹介します。
- 移動平均線: 移動平均線は、過去の一定期間の株価の平均値を線で結んだもので、株価のトレンドの方向性を示す最も基本的な指標の一つです。順張りトレーダーは、短期の移動平均線が長期の移動平均線を上抜けるゴールデンクロスを買いのサイン、短期の移動平均線が長期の移動平均線を下抜けるデッドクロスを売りのサインとして利用することがあります。また、株価が移動平均線よりも上にある場合は上昇トレンド、下にある場合は下降トレンドと判断し、トレンドの方向に順じた取引を行います。
- ADX: ADXは、トレンドの強さを示す指標で、トレンドの方向性を示すものではありません。ADXの数値が25を超えると強いトレンドが発生していると判断され、順張りトレーダーは、ADXが強いトレンドを示している場合に、他の指標でトレンドの方向性を確認し、順張りでエントリーすることがあります。ADXは、+DI(プラスDI)と-DI(マイナスDI)という2つのラインとともに表示されることが多く、+DIが-DIよりも上にある場合は上昇トレンド、-DIが+DIよりも上にある場合は下降トレンドの可能性を示唆します。
- ROC: ROCは、一定期間前の株価と比較して、現在の株価がどの程度変化したかをパーセントで示す指標で、株価のモメンタム(勢い)を測るために用いられます。ROCがプラスであれば上昇トレンド、マイナスであれば下降トレンドを示唆し、数値が大きいほどトレンドの勢いが強いと判断されます。順張りトレーダーは、ROCが大きくプラスになっている銘柄に買いを入れたり、大きくマイナスになっている銘柄を売ったりすることがあります。
- RSI: RSIは、逆張り戦略でも用いられる指標ですが、順張り戦略においてもトレンドの確認に利用されます。強い上昇トレンドの際には、RSIが70%以上の買われすぎの水準に留まることがあり、これはトレンドの勢いが強い証拠と解釈されます。また、RSIが50%を上回って推移している場合は上昇トレンド、50%を下回って推移している場合は下降トレンドと判断することができます。順張りトレーダーは、RSIが上昇トレンドを示している場合に買いを検討することがあります。
- ストキャスティクス: ストキャスティクスも、逆張り戦略と同様に順張り戦略においても利用されます。強い上昇トレンドの際には、ストキャスティクスが80%以上の買われすぎの水準に留まることがあり、これはトレンドの勢いが強い証拠と解釈されます。また、上昇トレンドの際には、%Kラインが%Dラインを下から上にクロスするゴールデンクロスが押し目買いのサインとして利用されることがあります。
逆張りと順張りのメリット・デメリット比較
特徴 | 逆張り投資(逆張り) | 順張り投資(トレンドフォロー) |
---|---|---|
基本原則 | 安く買って、高く売る;トレンドに逆らう | 高く買って、さらに高く売る;トレンドに従う |
有効な相場 | レンジ相場、売られすぎの市場 | 明確な上昇または下降トレンド |
リスク | 一般的に高リスク | トレンド転換期には高リスクとなる可能性あり |
タイミング | 底値を見極めるのが難しい | トレンドに乗るのは比較的容易 |
保有期間 | 中長期 | 短中期 |
心理 | 忍耐力、独立した思考が必要 | 市場のセンチメントを捉え、素早く行動することが重要 |
メリット | 安値で購入できる可能性、市場心理の反転時に大きな利益が期待できる、レンジ相場で有効、バブル崩壊のリスクを軽減 | トレンドに乗れば利益を上げやすい、利益が出るまでの期間が比較的短い、トレンド初期に乗りやすい、市場の勢いを活用できる |
デメリット | 底値を見誤るリスク、株価がさらに下落する可能性、市場の修正に時間がかかる場合がある、長期間アンダーパフォームする可能性、徹底的なリサーチが必要、トレンドに逆らうため精神的な負担が大きい、損切りが難しい | 高値掴みのリスク、トレンドが急に反転した場合に大きな損失を被る可能性、常に市場を監視しタイムリーな売買が必要、取引コストが高くなる可能性、レンジ相場では機能しにくい、トレンド終盤でエントリーするリスク |
逆張りと順張りの組み合わせ戦略
逆張りと順張りは、それぞれ異なる強みを持っているため、相場状況や投資家の戦略に応じて組み合わせることも可能です。
例えば、長期的な視点では割安と判断される銘柄を逆張りで購入し、その後、株価が上昇トレンドに入ったことを確認してから、順張りの手法を用いて買い増しを行うといった方法が考えられます。これは、逆張りのメリットである安値での購入と、順張りのメリットであるトレンドに乗るという点を組み合わせた戦略と言えるでしょう。
また、市場全体が大きく下落した際には、ファンダメンタルズ指標が良好な企業の株を逆張りで購入し、その後、市場全体のセンチメントが回復し、上昇トレンドが始まった段階で、順張りの手法に切り替えるという戦略も考えられます。
さらに、テクニカル指標を用いる場合でも、例えば、RSIやストキャスティクスなどのオシレーター系指標で売られすぎの状態を確認し、逆張りでの買いを検討した後、株価が移動平均線を上抜けるなど、上昇トレンドを示すサインが出たら順張りで買い増しを行うといった組み合わせも考えられます。
このように、逆張りと順張りのそれぞれの特徴を理解し、相場状況や自身の投資判断に応じて柔軟に戦略を組み合わせることで、より効果的な投資を行うことが期待できます。
注意すべき点やリスク
株式投資初心者が逆張りや順張りの戦略を実践する際には、いくつかの重要な注意点とリスクを理解しておく必要があります。
逆張り投資における注意点とリスク:
- 価値の罠(バリュー・トラップ): 株価が割安に見えても、実際にはファンダメンタルズ指標が悪化しているなど、株価が低迷し続ける可能性があります。安易な逆張りは、このような「価値の罠」に陥るリスクがあります。
- 市場タイミングの難しさ: 底値を正確に予測することは非常に困難です。早すぎる買いは、さらなる下落による損失を招く可能性があります。
- 忍耐力が必要: 株価が反転するまで時間がかかることがあり、その間、含み損を抱えることに耐える精神力が必要です。
- 徹底的なリサーチ: 逆張りは、市場の過剰反応を見抜く必要があるため、 ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析に基づいた徹底的なリサーチが不可欠です。
- 損切りルールの設定: 予想に反して株価が下落し続けた場合のために、明確な損切りルールを設定しておくことが重要です。
順張り投資における注意点とリスク:
- 高値掴み: 上昇トレンドの終盤で買いに入ってしまうと、その後すぐにトレンドが反転し、高値で掴んでしまうリスクがあります。
- トレンドの急な反転: トレンドは永遠に続くものではありません。予期せぬ悪材料などによって、トレンドが急に反転し、大きな損失を被る可能性があります。
- 市場の監視が必要: トレンドの変化に迅速に対応するため、常に市場の動向を監視する必要があります。
- ダマシ: テクニカル指標のシグナルが実際にはトレンドの継続を示唆せず、一時的な動きに過ぎない「ダマシ」に注意が必要です。
- 損切りルールの設定: トレンドが反転した場合に、損失を限定するための損切りルールを事前に設定しておくことが重要です。
株式投資初心者は、まず順張りから始めるのが比較的取り組みやすいかもしれません。トレンドに乗るという考え方は理解しやすく、利益を得るまでの期間も比較的短い傾向があります。一方、逆張りは、底値を見極める必要があり、タイミングが難しいため、ある程度投資経験を積んでから挑戦するのが良いでしょう。
いずれの戦略を選ぶにしても、少額から始め、デモトレードなどで練習を重ねることが重要です。また、自身のリスク許容度や投資目標に合わせて戦略を選択し、常にファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の両方を活用して、慎重に投資判断を行うように心がけましょう。
まとめ
逆張りと順張りは、株式投資における二つの基本的なアプローチであり、それぞれ独自のメリットとデメリット、そして有効な相場状況を持っています。どちらの戦略が優れているということは一概には言えず、投資家自身の投資スタイル、リスク許容度、そしてその時の市場環境によって最適な戦略は異なります。
株式投資初心者の方は、まずそれぞれの戦略の基本的な考え方をしっかりと理解し、少額での実践を通じて経験を積むことが大切です。テクニカル指標は、それぞれの戦略をサポートする強力なツールとなりますが、過信することなく、 ファンダメンタルズ分析と合わせて総合的に判断することが重要です。
市場は常に変化するため、一つの戦略に固執するのではなく、状況に応じて柔軟に戦略を使い分けることも、長期的に株式投資で成功するための鍵となるでしょう。
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