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主要株価指数について:ダウ、ナスダック、S&P 500、日経平均、TOPIX

株価指数は、複雑に変動する株式市場全体の動向や、特定の産業セクターのパフォーマンスを把握するための不可欠なツールです。個別の株式の価格変動を追うことは比較的容易ですが、市場全体の状況を簡潔な数値で示すためには、株価指数のような工夫された指標が必要となります 。これらの指数は、市場全体の「体温」を示すバロメーターとして機能し、投資家が市場のトレンドを理解する上で重要な役割を果たします。  

さらに、株価指数は投資戦略におけるベンチマーク(基準指標)として広く利用されています。例えば、特定の指数に連動することを目指すインデックスファンドやETF(上場投資信託)の運用成果を評価する際の基準となります 。また、経済全体の健全性や景気動向を測るためのマクロ経済指標としても注目され、金融政策や経済政策の判断材料の一つともなり得ます。  

本記事では、グローバルおよび日本の株式市場において特に重要視される5つの主要な株価指数、すなわちダウ平均株価(Dow Jones Industrial Average)、ナスダック指数(Nasdaq Composite Index / Nasdaq 100 Index)、S&P 500指数、日経平均株価(Nikkei 225)、そして東証株価指数(TOPIX)を取り上げます。それぞれの指数について、その概要、算出方法、構成銘柄の選定基準、市場における意味合い、そして各指数に連動する代表的なETFについて、詳細に解説していきます。これにより、各指数の特性と違いを深く理解し、投資判断や市場分析に役立てることを目指します。

1. ダウ平均株価(Dow Jones Industrial Average)

概要と市場における位置づけ

ダウ・ジョーンズ工業株価平均(Dow Jones Industrial Average、通称NYダウ)は、米国株式市場の動向を示す指標として、世界で最も長い歴史を持ち、最も広く引用されている代表的な株価指数の一つです 。1896年に算出が開始され、当初はその名の通り工業株が中心でしたが、時代の変遷とともに構成銘柄は変化し、現在では米国の経済を牽引する様々な業種の優良企業30銘柄によって構成されています 。  

構成銘柄数は30と他の主要指数に比べて少ないものの、選定される企業はいずれも各業界で高い知名度と影響力を持つ大企業です 。マイクロソフト、アップル、コカ・コーラ、ウォルマートといった世界的な企業が名を連ねており(2024年10月時点 )、これらの厳選された企業群の株価動向を通じて、米国経済の基調を捉えようとする指数として、市場から高い信頼を得ています 。  

算出方法:価格加重平均

NYダウの算出方法は「価格加重平均型」または「株価平均型」と呼ばれる方式を採用しています。具体的には、構成する30銘柄の株価を単純に合計し、それを構成銘柄数(30)で割り、さらに「除数(Divisor)」と呼ばれる調整値で割ることで算出されます 。  

この「除数」は、構成銘柄の入れ替えや株式分割・併合など、株価の非連続的な変動要因が発生した場合でも、指数の連続性を維持するために調整される重要な要素です 。これにより、過去の指数値との比較が可能となっています。  

価格加重平均という算出方法には特有の性質があります。株価の絶対水準が高い銘柄(いわゆる「値がさ株」)の値動きが、株価の低い銘柄の値動きよりも指数全体に大きな影響を与える傾向があります 。例えば、株価300ドルの銘柄が10ドル上昇するのと、株価30ドルの銘柄が10ドル上昇するのでは、指数への影響度は同じになりますが、変動率で見ると後者の方がはるかに大きくなります。このため、構成銘柄の多くが上昇していても、一部の値がさ株が大幅に下落すると、指数全体としては下落してしまう可能性があります。この特性から、NYダウの動きが必ずしも構成銘柄全体の動向や、より広範な市場の実態(例えば時価総額ベースでの市場動向)を正確に反映していない場合があるという指摘もあります 。NYダウを見る際には、この価格加重平均の特性を理解しておくことが重要です。  

構成銘柄の選定基準

NYダウの構成銘柄は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社(S&P Dow Jones Indices)の指数委員会によって選定されますが、その選定基準について明確な定量的ルールは公表されていません 。  

しかし、選定プロセスにおいては、以下のような定性的な要素が重視されていると考えられています :  

  • 企業の評判と持続的な成長性: 良好な企業イメージを持ち、長期的に成長を続けている実績があること。
  • 投資家の関心: 投資家コミュニティから高い関心を集めている企業であること。
  • 米国拠点と国内事業: 米国で設立され、本社を米国内に置いていること。また、売上高の大部分を米国内で生み出していること。
  • 経済的影響力と代表性: 米国経済全体に対する影響力が大きく、各業界を代表する存在であり、高い知名度を有すること。
  • 業種の多様性とバランス: 特定の業種に偏らず、米国経済の産業構造を反映するように、業種間のバランスが考慮されること。輸送、公共事業セクターの銘柄は伝統的に除外される傾向があります 。  
  • 株式の流動性と安定性: 株式が市場で十分に取引されており(流動性)、株価が安定していること。
  • 長期的な業績: 長期にわたる良好な業績と、将来的な成長が見込まれること。

これらの要素を総合的に評価し、委員会が30銘柄を選定します。構成銘柄は固定ではなく、経済や市場環境の変化に応じて定期的に見直され、入れ替えが行われます 。  

選定基準が非公開であり、委員会の判断に委ねられる部分は、他のルールベースの指数と比較して透明性に欠けるという側面があります。しかし、その結果として選ばれる企業群は、世界的に認知され、各分野をリードする優良企業ばかりです 。この構成銘柄の質の高さと影響力が、NYダウが長年にわたり市場で信頼され、最も注目される指数の一つであり続ける理由となっています 。  

連動する代表的なETF:SPDR Dow Jones Industrial Average ETF (DIA)

NYダウに連動する代表的なETFとして、SPDR® Dow Jones Industrial Average℠ ETF (ティッカー: DIA) が挙げられます。このETFは、NYダウの値動きに、経費(信託報酬など)を控除する前で概ね連動する投資成果を目指して運用されます 。  

DIAは、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)グループ傘下のPDR Services LLCが管理・スポンサーを務め、1998年1月14日に設定された、米国ETFの中でも歴史の長い商品の一つです 。総経費率は年率0.16%です 。  

構成銘柄はNYダウと同じ30銘柄で、組入比率もNYダウの価格加重方式を反映したものとなります。2025年4月10日時点での組入上位銘柄には、ユナイテッドヘルス・グループ、ゴールドマン・サックス・グループ、マイクロソフト、ホーム・デポなどが含まれています 。DIAはニューヨーク証券取引所(NYSE Arca)に上場しており、株式と同様に取引時間中に市場価格で売買することが可能です 。純資産総額も大きく、流動性の高いETFとして知られています 。  

2. ナスダック指数(Nasdaq Index)

ナスダック市場に関連する主要な株価指数として、「ナスダック総合指数」と「ナスダック100指数」の二つが広く知られています。これらは対象とする銘柄範囲や特性が異なるため、それぞれの特徴を理解することが重要です。

ナスダック総合指数:概要と特徴

ナスダック総合指数(Nasdaq Composite Index)は、米国のナスダック(NASDAQ)市場に上場しているほぼ全ての銘柄を対象とした株価指数です 。構成銘柄数は約5,000 から約7,000 と情報源によって差異がありますが、いずれにしても非常に広範な銘柄をカバーしています。  

この指数は、1971年2月5日の市場の時価総額を100として、その後のナスダック市場全体の時価総額の変動を示すように算出されています 。算出方法は後述する「時価総額加重平均型」です 。  

構成銘柄数が非常に多いことから、ナスダック総合指数はナスダック市場全体の動向を包括的に反映する指標とされています 。ナスダック市場には、情報技術(IT)、バイオテクノロジー、インターネット関連など、新興企業や成長企業が多く上場しているため、特にこれらのセクターのトレンドを示す指標として世界的に注目されています。過去には、構成銘柄の条件として「2004年1月1日以前に他の米国市場に上場していないこと」という基準が存在した時期もありました 。  

ナスダック100指数:概要と特徴

一方、ナスダック100指数(Nasdaq 100 Index)は、ナスダック市場に上場する銘柄の中から、金融セクター(銀行、保険など)を除いた上で、時価総額が大きい上位約100銘柄を選出して構成される指数です 。  

構成銘柄数は必ずしも厳密に100となるわけではありません。例えば、一つの企業が議決権の異なる複数のクラスの株式(例:Alphabet社のクラスA株とクラスC株)を上場している場合、それらが別々に指数に組み入れられることがあるため、銘柄数は100を超えることがあります 。  

ナスダック100指数は、金融セクターを除外している点と、時価総額上位の大型株に絞っている点が大きな特徴です。特に情報技術セクターの構成比率が非常に高く、マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、アルファベット(グーグル)といった世界的な巨大テクノロジー企業が組入上位を占めています 。そのため、この指数は米国の大型ハイテク株やグロース株(成長株)の動向を示す代表的な指標として広く認識されており、投資家の注目度も非常に高いです 。  

算出方法:時価総額加重平均

ナスダック総合指数、ナスダック100指数のいずれも、算出方法は「時価総額加重平均型」を採用しています 。これは、構成銘柄それぞれの時価総額(株価 × 発行済株式数)の合計額を、基準となる時点(基準日)の時価総額合計で割り、基準値を乗じて算出する方式です 。  

この方式では、各銘柄の指数に与える影響度(ウェイト)が、その銘柄の時価総額の大きさに比例します。つまり、時価総額が大きい企業の株価変動は、時価総額が小さい企業の株価変動よりも、指数全体の値動きに対して大きな影響を与えることになります 。ナスダック100指数においては、構成比率上位を占める巨大IT企業の株価動向が、指数全体のパフォーマンスを大きく左右する傾向があります 。これは市場の経済的実態を反映する方法である一方、少数の超大型株の影響力が極端に大きくなるリスクも内包しています。  

そのため、ナスダック100指数では、特定の銘柄の影響が過度に大きくなることを防ぐため、構成比率の上限設定(例えば、個別銘柄の上限を24%とするルール )や、定期的なリバランス(構成比率の調整)が行われています 。  

構成銘柄の選定基準

ナスダック総合指数の構成銘柄は、ナスダック市場に上場しているほぼ全ての普通株、ADR(米国預託証券)、リミテッド・パートナーシップ持分などが対象となります 。特定の選定委員会による選別プロセスというよりは、ナスダック市場への上場そのものが構成銘柄となるための主要な基準と言えます。  

ナスダック100指数の構成銘柄選定には、より明確な基準とプロセスが存在します:

  • 上場市場: ナスダック市場(Global Select MarketまたはGlobal Market)に上場していること 。  
  • 除外セクター: 金融セクターに属する企業(銀行、保険会社、投資会社など)およびREIT(不動産投資信託)は対象外となります 。  
  • 流動性: 一定以上の流動性が求められます。例えば、1日あたりの平均株式出来高が20万株以上であることなどが基準とされます 。  
  • 上場期間: 過去には2年以上の継続上場が条件でしたが、現在は3ヶ月程度に短縮されており、新規上場企業も比較的早期に採用候補となり得ます 。  
  • 時価総額: 上記の条件を満たす銘柄の中から、時価総額(浮動株調整前)が大きい順に上位100銘柄(厳密には100社)が選ばれます 。  
  • 定期見直し: 構成銘柄は年に1回、12月に定期的な見直し(リバランスおよび銘柄入れ替え)が行われます 。この見直しは、時価総額ランキングに基づいた客観的なルールに従って実施されます。例えば、以下のようなルールが適用されます :
    • 時価総額ランキングで上位75位以内に入った非採用銘柄は、原則として採用されます。
    • 既に採用されている銘柄は、ランキング100位以内であれば原則として維持されます。
    • 既存の採用銘柄がランキング101位から125位に後退した場合でも、特定の条件(前回の見直し時の順位など)を満たせば維持される場合があります。
    • ランキングが125位以下に下落した既存銘柄は、原則として除外されます。

ナスダック100指数の選定基準は、時価総額という市場の評価を客観的に反映する指標を最も重視している点が特徴的です。企業の収益性(黒字か赤字か)は直接的な採用基準ではなく、たとえ赤字企業であっても、投資家からの成長期待が高く、結果として時価総額が大きくなれば、指数に採用される可能性があります 。このメカニズムにより、ナスダック100指数は、革新的な技術やビジネスモデルを持つ新興企業や、高い成長が期待される企業を機動的に指数に取り込むことができ、市場のダイナミズムを反映しやすい構造となっています 。  

連動する代表的なETF

ナスダック市場の指数に連動するETFは、特に米国のテクノロジー株や成長株への投資を考える際に人気があります。

ナスダック100指数に連動するETF:

  • Invesco QQQ Trust (ティッカー: QQQ): ナスダック100指数に連動するETFの中で、最も代表的で歴史が長く(1999年設定)、取引量(流動性)も非常に大きいETFです 。運用会社はインベスコ社。経費率は年率0.20%と、同種の投資信託と比較して低水準です 。構成銘柄はナスダック100指数に準じ、情報技術セクターの比率が高いのが特徴です 。純資産総額も世界最大級で、非常に人気のあるETFです 。  
  • Invesco NASDAQ 100 ETF (ティッカー: QQQM): QQQと同じナスダック100指数に連動しますが、QQQよりも後発で、経費率がさらに低く設定されています(例:年率0.15%) 。長期保有を考える個人投資家などをターゲットにしています。  
  • (参考) ProShares UltraPro QQQ (ティッカー: TQQQ): QQQ(ナスダック100指数)の日々の値動きの3倍となることを目指すレバレッジ型ETFです 。相場上昇時には大きなリターンが期待できる反面、下落時には損失も3倍となり、非常にハイリスク・ハイリターンな商品です。また、複利効果により、2日以上の期間では必ずしも指数の3倍のパフォーマンスになるとは限りません。経費率も年率0.95%と高く、主に短期的なトレーディングに用いられます 。  

ナスダック総合指数に連動するETF:

  • Fidelity Nasdaq Composite Index ETF (ティッカー: ONEQ): ナスダック総合指数に連動する投資成果を目指すETFです 。ナスダック市場に上場する広範な銘柄(組入銘柄数は1,000を超える )に分散投資する形となり、ナスダック市場全体の動きを捉えることを目的としています。運用会社はフィデリティ社(実際の運用はGeode Capital Managementが行う場合あり )、設定日は2003年9月25日です 。経費率は年率0.21%です 。  

QQQとONEQの比較: QQQとONEQは、どちらもナスダック市場に関連する指数に連動しますが、その投資対象は大きく異なります。QQQが連動するナスダック100指数は、金融を除く時価総額上位約100銘柄に絞られており、特に大型のハイテク株やグロース株への集中投資の性格が強いです 。  

一方、ONEQが連動するナスダック総合指数は、ナスダック市場のほぼ全銘柄を対象とするため、中小型株や金融株(ナスダック100からは除外)も含む、より広範な分散投資となります 。依然としてテクノロジー関連の比率は高いものの 、ナスダック100ほどの集中度はありません。  

経費率はQQQ(0.20%)とONEQ(0.21%)でほぼ同水準です 。したがって、投資家は、ナスダック市場の中でも特に影響力の大きい大型成長企業群に集中して投資したいのか(QQQ)、あるいはナスダック市場全体の動向により幅広く連動させたいのか(ONEQ)という、投資戦略上の目的によってどちらのETFを選択するかを判断することになります 。  

3. S&P 500指数

概要と市場における位置づけ

S&P 500指数は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出・公表している、米国株式市場を代表する最も重要な株価指数の一つです 。ニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック(NASDAQ)といった米国の主要な証券取引所に上場している企業の中から、市場規模、流動性、業種などを考慮して選ばれた約500の主要企業(構成銘柄数は厳密には500を超えることもあります )の株式で構成されています 。  

この指数は、米国株式市場全体の時価総額の約80%をカバーしているとされ 、米国市場全体の動向や米国経済の健全性を示す最も信頼性の高い指標の一つとして、世界中の機関投資家、個人投資家、アナリスト、政策決定者などによって広く利用されています 。多くの米国株投資信託やETFにとって、運用成果を比較するための重要なベンチマーク(基準指標)となっています 。  

算出方法:浮動株調整後時価総額加重平均

S&P 500指数の算出方法は、「浮動株調整後時価総額加重平均(Float-Adjusted Market Capitalization Weighted)」方式です 。これは、ナスダック指数と同様に時価総額に基づいて各銘柄のウェイト(指数への影響度)が決まる方式ですが、S&P 500ではさらに「浮動株調整」が行われる点が重要です。  

「浮動株(Float)」とは、発行済み株式総数のうち、創業者一族、経営陣、他の企業(戦略的持ち合い)、政府機関などが安定的に保有していると考えられる株式(これらは通常、市場で売買される可能性が低い)を除いた、一般の投資家が市場で自由に売買できる可能性のある株式のことを指します 。S&P 500では、この浮動株の数に株価を掛けた「浮動株調整後時価総額」を算出し、これに基づいて各銘柄のウェイトを決定し、指数を計算します。  

単純な発行済み株式数に基づく時価総額ではなく、浮動株基準の時価総額を用いることには大きな意義があります。これにより、指数は、大株主によって固定的に保有されている株式の影響を除外し、実際に投資家が市場で取引可能な株式の価値(=投資可能な市場規模)や、各企業の市場における実質的な影響力をより正確に反映することができます 。これは、指数をベンチマークとして利用する投資家や、指数に連動するETFを組成・運用する上で、より現実的で有用な指標となります。  

指数値自体は、構成銘柄の浮動株調整後時価総額の合計を、基準時(1941年から1943年の平均時価総額)の指数用時価総額で割り、基準値(10ポイント)を乗じて算出されます。

構成銘柄の選定基準

S&P 500の構成銘柄は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社の指数委員会によって選定されます 。選定プロセスには、客観的な定量的基準と、委員会の定性的な判断の両方が用いられます。主な選定基準は以下の通りです :  

  • 市場規模(Market Capitalization): 米国株式市場における大型株セグメントを代表するに足る、一定以上の時価総額を有していること。具体的な基準額(例:82億ドル以上 や180億ドル以上 )は、市場環境に応じて見直されます。  
  • 流動性(Liquidity): 株式が市場で十分に取引されており、投資家が容易に売買できるだけの流動性(出来高や売買代金、売買回転率など)があること 。  
  • 浮動株比率(Public Float): 発行済み株式総数に対する浮動株の割合が一定以上(一般的には50%以上 )であること。これにより、株式の多くが固定株主によって保有されている企業は除外されやすくなります。  
  • 収益性(Profitability): 財務的な健全性を示す基準として、直近の四半期および過去4四半期の合計利益が黒字であること 。  
  • 米国企業(U.S. Domicile): 米国に登記上の本社を置いている企業であること 。  
  • セクターバランス(Sector Balance): 指数が米国経済全体の産業構造を適切に反映するように、GICS(世界産業分類基準)に基づくセクター(業種)間の構成比率のバランスが考慮されること 。  

これらの基準を満たす候補銘柄の中から、最終的に指数委員会が構成銘柄を選定し、必要に応じて入れ替えを行います 。指数の構成比率を維持するためのリバランス(再調整)は、通常、年4回(四半期ごと)実施されます 。  

S&P 500の選定基準は、単に時価総額が大きいというだけでなく、流動性、収益性、そしてセクターの網羅性といった複数の側面から「質」の高い企業を選び出すことを目指しています。これにより、指数は米国株式市場の「代表性」を確保すると同時に、投資家が実際に投資対象としやすい、健全で流動性の高い銘柄群で構成される「投資可能性(Investability)」を両立させようとしています。これは、単一の基準(例えば時価総額ランキングのみ)で機械的に選定される指数とは異なる特徴であり、S&P 500がベンチマークとして広く信頼されている理由の一つです。

連動する代表的なETF

S&P 500指数は世界で最も注目される株価指数の一つであるため、これに連動するETFも数多く設定されており、その中でも特に運用規模が大きく、代表的なものとして以下の3つが挙げられます 。  

  • SPDR S&P 500 ETF Trust (ティッカー: SPY): 1993年に米国で最初に上場されたETFであり、最も長い歴史を持ちます 。日々の取引高(出来高)が群を抜いて大きく、極めて高い流動性を誇るため、大口の取引を行う機関投資家などに好まれます 。運用会社はステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。経費率は年率0.09%です 。ただし、その法的構造は「ユニット・インベストメント・トラスト(UIT)」という形態であり、後述する他のETFとは異なる特性を持ちます 。  
  • iShares Core S&P 500 ETF (ティッカー: IVV): 世界最大の資産運用会社の一つであるブラックロック社が運用するETFです。経費率が年率0.03%と非常に低く設定されているのが大きな特徴です 。法的構造は一般的な投資信託と同様の「オープンエンド型」です 。  
  • Vanguard S&P 500 ETF (ティッカー: VOO): 低コスト運用で知られるバンガード社が運用するETFです。IVVと同様に、経費率は年率0.03%と極めて低く抑えられています 。法的構造も「オープンエンド型」です 。  

SPY, IVV, VOOの比較: これら3つのETFは、いずれもS&P 500指数への連動を目指すという点では共通していますが、投資家が選択する上で重要な違いが存在します 。  

最大のポイントは、コスト(経費率)と法的構造(UIT vs オープンエンド型)、そしてそれに伴う流動性配当再投資税効率の違いです 。  

  • コストと流動性: SPYは経費率が0.09%と、IVV/VOOの0.03%に比べてやや高いものの、その圧倒的な取引量(流動性)は、特に頻繁に売買を行うトレーダーや大口注文を出す投資家にとっては、取引コスト(スプレッドなど)を抑える上で有利に働く可能性があります 。一方、IVVとVOOは経費率が非常に低いため、長期保有を前提とする投資家にとってはコストメリットが大きくなります 。  
  • 構造、配当、税効率: SPYのUIT構造は、いくつかの制約をもたらします。例えば、構成銘柄から受け取った配当金を即座に再投資することができず、分配時まで現金で保有する必要があります。また、証券貸付(保有株を貸し出して収益を得る行為)も行いません。さらに、償還(ETFの設定・交換)の仕組みがオープンエンド型ほど柔軟ではないため、税効率の面でやや不利になる可能性があります 。一方、オープンエンド型であるIVVとVOOは、配当金を次の分配までファンド内で再投資することが可能であり、証券貸付による追加収益も期待できます。また、インカインド(現物)での設定・償還メカニズムにより、一般的にSPYよりも税効率が高い(=投資家が受け取る分配金や売却益に対する税負担が軽減される可能性がある)とされています 。  

近年、資産規模(AUM)においてVOOやIVVがSPYを上回る状況も見られるようになりました 。これは、多くの投資家、特に長期的な資産形成を目指す個人投資家などが、SPYの流動性の高さよりも、IVVやVOOが提供する低コスト、配当再投資の可能性、税効率の良さを重視する傾向が強まっていることを示唆していると考えられます。投資家は、自身の投資スタイル(短期売買か長期保有か)、取引規模、コストや税効率に対する考え方などを総合的に勘案して、最適なETFを選択することが求められます。  

4. 日経平均株価(Nikkei 225)

概要と市場における位置づけ

日経平均株価(通称:日経平均、日経225)は、株式会社日本経済新聞社が算出・公表している、日本の株式市場を代表する最も著名な株価指数の一つです 。東京証券取引所(東証)のプライム市場(2022年4月の市場再編以前は東証第一部)に上場している銘柄の中から、市場流動性や業種間のバランスなどを考慮して選定された225社の株式を対象としています 。  

日本の株式市場全体の動きを示す指標として、新聞やテレビニュースなどで最も頻繁に報道・引用される指数であり、個人投資家にとっても馴染みが深いです 。後述するTOPIX(東証株価指数)と並び、日本の株式市場の動向や市場参加者のセンチメント(心理)を把握する上で、非常に重要な役割を担っています 。  

算出方法:価格加重平均(みなし額面方式)

日経平均株価の算出方法は、NYダウと同様に「価格加重平均型」ですが、日本の株式市場の歴史的経緯を反映した独自の調整が加えられています。具体的には、「修正平均株価」とも呼ばれ、以下のステップで計算されます :  

  1. 採用株価の算出: 各構成銘柄の株価に、「株価換算係数」を乗じて「採用株価」を算出します。この株価換算係数は、かつて日本の株式に存在した「額面(Par Value)」の違いによる株価水準の差を調整するために導入された「みなし額面」制度の名残です。現在は、主に株価が異常に高い銘柄(値がさ株)の指数への影響度を抑制する目的で、特定の銘柄に対して1未満の係数が適用されることがあります 。  
  2. 指数の算出: 上記で計算された225銘柄の「採用株価」の合計を、「除数(Divisor)」で割って算出します。

この「除数」は、NYダウの除数と同様の役割を果たします。構成銘柄の入れ替えや、採用銘柄の株式分割・併合などによって株価が変動しても、指数の連続性が保たれるように日々調整されます 。表示単位は「円・銭」です 。  

日経平均株価の算出方法は、構成銘柄の株価の単純平均に近い形となるため、NYダウと同様に、株価の絶対水準が高い「値がさ株」の株価変動が、指数全体の値動きに大きな影響を与えるという特性を持ちます 。例えば、日経平均構成銘柄の中でも特に株価の高いファーストリテイリング(ユニクロ運営会社)などの値動きは、日経平均全体の変動に大きな影響を与えることが知られています。構成銘柄数は225とNYダウ(30銘柄)より多いものの、この「値がさ株」の影響により、構成銘柄の多くが上昇していても、一部の値がさ株が大きく下落すると指数全体が下落する、といった現象が起こり得ます 。そのため、日経平均株価の動きが、必ずしも日本株式市場全体の広範な動き(特に時価総額ベースでの動き)を正確に反映しているとは限らない、という点には留意が必要です。この点で、時価総額加重平均型であるTOPIXと比較されることが多くあります 。  

構成銘柄の選定基準

日経平均株価を構成する225銘柄は、東証プライム市場の上場銘柄の中から、日本経済新聞社が以下の2つの主要な観点を重視して選定します :  

  1. 市場流動性(Market Liquidity): 株式が市場で活発に取引されている度合いを測ります。具体的には、過去5年間の累積売買代金と、同じく過去5年間の売買高(または売買代金)に対する価格変動の大きさ(ボラティリティ)を指標として評価し、流動性の高い銘柄が選ばれやすくなります 。逆に、市場流動性が著しく低下した銘柄は、定期見直し時に除外される可能性があります 。  
  2. セクターバランス(Sector Balance): 日本の産業構造を指数に反映させるため、特定の業種に構成銘柄が偏らないように、業種間のバランスが考慮されます。日本経済新聞社が独自に定める以下の6つのセクター分類(全36業種)に基づいて、各セクターからバランス良く銘柄が選定されます :
    • 技術(テクノロジー): 医薬品、電気機器、自動車、精密機器、通信など
    • 金融(フィナンシャルズ): 銀行、その他金融、証券、保険
    • 消費(コンシューマー): 水産、食品、小売業、サービスなど
    • 素材(マテリアルズ): 鉱業、繊維、紙・パルプ、化学、石油、ゴム、窯業、鉄鋼、非鉄、商社など
    • 資本財・その他(キャピタルグッズ/その他): 建設、機械、造船、輸送用機器、その他製造、不動産など
    • 運輸・公共(運輸・ユーティリティーズ): 鉄道・バス、陸運、海運、空運、倉庫、電力、ガスなど

構成銘柄は、原則として年に1回(通常は10月の第1営業日に入れ替え実施、基準日は7月末)定期的な見直しが行われます 。この定期見直しでは、「高流動性銘柄群」の判定に基づいた絶対的な採用・除外基準(例:流動性ランキング上位75位以内の未採用銘柄は採用、451位以下の既存銘柄は除外)と、セクターバランスを考慮した相対的な採用・除外基準が適用されます 。  

最終的な採用・除外銘柄の決定は、これらの基準に基づきつつ、学識経験者や市場専門家などの意見も参考にした上で、日本経済新聞社が行います 。  

価格加重平均という算出方法が持つ「値がさ株」への偏りを補完するため、日経平均の銘柄選定プロセスでは、「市場流動性」と「セクターバランス」という二つの要素が重視されています。流動性の高い銘柄を選ぶことで指数構成銘柄の取引可能性を確保し、セクターバランスを考慮することで日本の主要産業を幅広く網羅することを目指しています 。これにより、指数が日本の株式市場を代表する主要企業の集合体としての性格を維持し、市場の代表性を高めようとしています。また、定期的な見直しを通じて、産業構造の変化にも対応し、指数の継続性と時代への適合性を両立させようと努めています 。  

連動する代表的なETF

日経平均株価は日本の代表的な指数であるため、これに連動するETFも多数存在します。その中でも代表的なものとして以下の例が挙げられます。

  • NEXT FUNDS 日経225連動型上場投信 (東証コード: 1321): 野村アセットマネジメントが運用するETFで、日本国内のETFの中でも最大級の純資産総額を誇り、最も代表的な日経平均連動ETFの一つです 。連動対象とする指標は、日経平均株価そのものではなく、配当収益を再投資した場合の収益率を示す「日経平均トータルリターン・インデックス」(日経225配当込み指数とも呼ばれる)です 。信託報酬率(年率・税込)は、ファンドの純資産総額に応じて変動する段階料率が採用されており、例えば0.10527%といった水準になります 。分配金は年に1回、7月8日を基準日として支払われます 。  
  • NEXT FUNDS 日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信 (東証コード: 1570): 同じく野村アセットマネジメントが運用するETFですが、これは日経平均株価の日々の値動きの2倍に連動することを目指す「レバレッジ型」のETFです 。相場の上昇局面で大きなリターンを狙う短期的なトレーディング戦略などに用いられることが多い商品です。ただし、レバレッジ型ETFは、2日以上の期間では複利効果により、必ずしも対象指数の2倍のパフォーマンスになるとは限らないという特性(逓減効果など)があるため、長期投資には注意が必要です。こちらも純資産総額が大きく、流動性の高いETFの一つです 。分配金利回りは構造上0.00%となっています 。  

5. 東証株価指数(TOPIX)

概要と市場における位置づけ

TOPIX(トピックス、Tokyo Stock Price Index)は、株式会社JPX総研(日本取引所グループ)が算出・公表している、日本の株式市場全体の動向を示す最も包括的な株価指数です 。日本の株式市場の「縮図」とも言える存在です。  

TOPIXは、基準日である1968年1月4日の東京証券取引所市場第一部(当時)の全銘柄の時価総額合計を100ポイントとして、その後の市場全体の時価総額の変動を指数化したものです 。  

構成銘柄は、歴史的には東証一部に上場するほぼ全ての国内普通株式を対象としてきました 。しかし、2022年4月の東証市場区分再編(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場へ移行)に伴い、TOPIXの構成銘柄についても段階的な見直しが進められています。現在は、主にプライム市場上場銘柄が中心となっていますが、スタンダード市場やグロース市場を選択した旧東証一部銘柄も経過措置として含まれており、さらに将来的な選定基準の変更が予定されています 。  

TOPIXは、日経平均株価(225銘柄)と比較して構成銘柄数が圧倒的に多い(市場再編前は約2,200銘柄、2025年1月末時点の見込みで約1,700銘柄 )こと、そして算出方法が後述する「時価総額加重平均型」であることが大きな特徴です。このため、特定の銘柄(値がさ株)の影響を受けにくく、日本株式市場全体の広範な動きや構造をより正確に反映する指標として、特に国内外の機関投資家や年金基金などによって、運用パフォーマンスを測るベンチマークとして広く利用されています 。多くの日本株アクティブファンドやインデックスファンドがTOPIXをベンチマークとして採用しています 。  

算出方法:浮動株基準時価総額加重平均

TOPIXの算出方法は、S&P 500指数と同様の「浮動株基準時価総額加重平均(Float-Adjusted Market Capitalization Weighted)」方式です 。  

具体的な計算式は以下の通りです : TOPIX = (算出時点の指数用時価総額 ÷ 基準時価総額) × 100  

ここで、「算出時点の指数用時価総額」とは、TOPIXを構成する各銘柄の「指数用株式数」にそれぞれの株価を掛けたものの合計額です。「指数用株式数」は、基本的には各銘柄の発行済み株式数に「浮動株比率(FFW: Free-Float Weight)」を乗じて計算されます(さらに、特定の大型銘柄の影響を抑えるためのキャップ調整係数が適用される場合もあります )。  

「浮動株比率」は、S&P 500と同様に、発行済み株式の中から、大株主(例:10%以上保有)や役員、自己株式、政策保有株(持ち合い株)など、市場での売買可能性が低いと見なされる株式を除いた、実際に市場で流通していると考えられる株式の割合を示します 。  

この浮動株基準の時価総額加重平均方式を採用することにより、TOPIXは以下の特徴を持ちます:

  • 経済規模の反映: 各企業の指数への影響度が、その企業の市場における経済的な規模(市場が評価する価値)に比例します 。  
  • 投資可能性の考慮: 浮動株を基準とすることで、投資家が実際に投資可能な市場の実態をより正確に反映します 。  
  • 市場全体の網羅性: 多数の銘柄を含むことで、日本株式市場全体の動向を包括的に捉えることができます 。  
  • 値がさ株影響の抑制: 日経平均株価のような価格加重平均指数と異なり、特定の高株価銘柄の影響が過度に大きくなることを避けられます 。  

これらの特性から、TOPIXは日本株式市場の構造やパフォーマンスを分析する上で、非常に重要な指標とされています。

構成銘柄の選定基準と今後の見直し

TOPIXの構成銘柄は、現在、大きな変革期にあります。

従来の基準(市場再編前): 2022年4月の東証市場区分再編までは、原則として東証市場第一部に上場している全ての国内普通株式がTOPIXの構成銘柄でした 。  

市場再編後の移行措置(第1フェーズ:2022年4月 ~ 2025年1月): 市場再編に伴い、TOPIXのあり方も見直されることになりました。第1フェーズとして、以下の移行措置が取られています。

  • 継続採用: 2022年4月1日時点でTOPIXの構成銘柄であった企業は、再編後にプライム、スタンダード、グロースのいずれの市場を選択したかにかかわらず、原則としてTOPIXの構成銘柄として継続採用されました 。  
  • 段階的ウェイト低減: ただし、継続採用された銘柄のうち、流通株式時価総額(Free-Float Adjusted Market Cap)が100億円未満の銘柄については、「段階的ウェイト低減銘柄」と判定されました 。これらの銘柄は、2022年10月末から2025年1月末までの期間にわたり、四半期ごとに段階的にTOPIX算出上のウェイト(構成比率)が引き下げられ、最終的に2025年1月末をもってTOPIXから除外される予定です 。2023年10月には、これらの銘柄に対する再評価も行われました 。  
  • 銘柄数の減少: この第1フェーズの措置により、TOPIXの構成銘柄数は、当初の約2,100銘柄から、2025年1月末には約1,700銘柄程度まで減少する見込みです 。  

今後の見直し(第2フェーズ:2026年10月 ~ 2028年7月): 第1フェーズの完了後、さらにTOPIXの構成銘柄を選別し、指数としての機能性を高めるための第2フェーズの見直しが計画されています 。  

  • 対象市場の拡大: 第2フェーズでは、プライム市場だけでなく、スタンダード市場やグロース市場に上場する銘柄も、新規採用の対象となります 。  
  • 新たな選定基準の導入: 構成銘柄の選定にあたり、従来の市場区分ベースではなく、より市場機能(流動性や規模)を重視した、以下の2つの客観的な基準を用いた相対評価が導入されます :
    1. 年間売買代金回転率: (時価総額に対してどれだけ活発に売買されたかを示す指標)一定基準以上であること。
    2. 浮動株時価総額の累積比率: (全候補銘柄を浮動株時価総額順に並べた際の累積比率)上位の一定範囲内であること。
  • 定期的な入れ替え: これらの基準に基づき、年に1回、定期的な構成銘柄の入れ替え(採用・除外)が実施される予定です 。  
  • 銘柄数の絞り込み: この第2フェーズの見直しにより、TOPIXの構成銘柄数は、最終的に約1,200銘柄程度まで絞り込まれる見込みです 。  
  • 実施スケジュール: 第2フェーズの最初の銘柄入れ替え(定期選定)は2026年10月に実施される予定です 。この初回入れ替えで継続採用とならなかった銘柄(移行措置銘柄)については、即時除外ではなく、2026年10月から2028年7月にかけて、四半期ごとに8段階でウェイトが低減された後、完全に除外される予定です 。本格的な入れ替えが完了するのは2028年7月(または10月)となります 。  

この一連のTOPIX改革は、単に構成銘柄数を減らすことが目的ではありません。その根底には、TOPIXを、従来の「市場全体の網羅性」を重視した指数から、より**「投資対象としての機能性」**、すなわち、流動性が高く、市場で十分な規模を持つ銘柄で構成される、投資家にとって使いやすいベンチマークへと変革しようという狙いがあります 。  

TOPIXには、ETFや投資信託を通じて約110兆円とも推計される莫大なパッシブ運用資金が連動しているとされます 。構成銘柄の入れ替えは、これらの資金の売買を通じて、個別銘柄の株価に大きな影響を与える可能性があります 。新たに採用される銘柄には買い需要が、除外される銘柄には売り圧力が生じることが予想されます。また、企業側にとっても、TOPIX構成銘柄であり続けることが、機関投資家からの資金流入や企業価値評価に影響するため、新たな選定基準を満たすためのコーポレート・アクション(自己株買い、株式分割による流動性向上、政策保有株の売却、IR活動の強化など)を促すインセンティブとなる可能性があります 。このTOPIX改革は、今後の日本株式市場の構造や企業の行動に大きな影響を与える、極めて重要な動きとして注目されます。  

連動する代表的なETF

TOPIXに連動するETFも、日本の株式市場への投資手段として広く利用されています。代表的なものには以下があります。

  • NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信 (東証コード: 1306): 野村アセットマネジメントが運用するETFで、日本国内で設定されているETFの中で最大の純資産総額を誇ります 。流動性も非常に高く、多くの投資家に利用されています。信託報酬率(年率・税込)は、ファンドの純資産総額に応じて変動する段階料率が適用され、例えば0.0596%といった極めて低い水準となっています 。連動対象は配当込みのTOPIX(TOPIX Total Return Index)。分配金は年に1回、7月10日を基準日として支払われます 。  
  • MAXIS トピックス上場投信 (東証コード: 1348): 三菱UFJアセットマネジメントが運用するETFです 。こちらもTOPIXへの連動を目指す代表的なETFの一つです。信託報酬率(年率・税込)は0.066%です 。分配金は年に2回、1月と7月を基準日として支払われる点が1306との違いの一つです 。純資産総額や流動性は1306に比べて小さいものの、低コストでTOPIXに投資できる選択肢として存在感があります。  

7. 主要株価指数の比較

これまで解説してきた5つの主要株価指数は、それぞれ異なる特徴を持っています。投資家がこれらの指数を理解し、適切に活用するためには、その違いを明確に認識することが重要です。

算出方法の違いとその影響

株価指数の最も基本的な違いの一つは、その算出方法にあります。

  • 価格加重平均 (ダウ平均、日経平均): この方式は、構成銘柄の株価の単純な平均値に近い形で指数を算出します 。歴史的に古い指数に多く見られますが、株価の絶対値が高い「値がさ株」の動きが、企業の経済規模(時価総額)に関わらず、指数全体に大きな影響を与えてしまうという特性があります 。そのため、市場全体の動きを正確に反映しない場面も生じ得ます。  
  • 時価総額加重平均 (ナスダック総合、ナスダック100、S&P 500、TOPIX): こちらは、各構成銘柄の時価総額(株価 × 発行済株式数)の大きさに応じて、指数への影響度(ウェイト)が決まる方式です 。企業の経済的な規模や市場での存在感を反映するため、一般的に市場全体の動向をより正確に捉えることができるとされています 。ただし、巨大企業の時価総額が極端に大きい場合、その企業の株価動向が指数全体を大きく左右するという側面もあります 。  
  • 浮動株調整 (S&P 500、TOPIX): 時価総額加重平均の中でも、特に市場で実際に流通・売買される可能性の高い株式(浮動株)のみを時価総額の計算対象とする方式です 。これにより、大株主が固定的に保有する株式の影響を除外し、投資家が実際に投資可能な市場の実態や、各企業の市場における実質的な影響力をより精密に反映することを目指しています。  

対象市場と構成銘柄の特性比較

各指数は、対象とする市場や構成銘柄の選定基準も大きく異なります。

  • ダウ平均 (DJIA): 米国の様々な業種を代表する超大型優良企業30社に厳選されています 。銘柄数は少ないですが、委員会による定性的な判断で、時代を代表する影響力の大きい企業が選ばれます 。  
  • ナスダック総合指数: ナスダック市場に上場する数千の全銘柄を対象とし、市場全体の網羅性が高いです 。特にテクノロジー関連や新興企業が多く含まれる傾向があります 。  
  • ナスダック100指数: ナスダック上場銘柄の中から、金融を除いた時価総額上位約100社を選定します 。大型ハイテク株やグロース株への集中度が高いのが特徴で、ルールに基づいた客観的な基準で選定されます 。  
  • S&P 500指数: 米国の主要取引所に上場する大型株約500社で構成され、幅広い業種をカバーしています 。米国株式市場全体の代表と見なされており、定量的・定性的な基準に基づき委員会が選定します 。  
  • 日経平均株価 (Nikkei 225): 東証プライム市場の主要企業から、市場流動性とセクターバランスを考慮して選ばれた225銘柄で構成されます 。  
  • TOPIX: かつては東証一部の全銘柄が対象でしたが、市場再編とそれに続く見直しにより、今後はプライム、スタンダード、グロース市場全体から流動性や時価総額の基準で選別された約1,200銘柄で構成される予定です 。日本株式市場全体の広範な動きを反映します。  

各指数が示す市場の側面

これらの違いから、各指数は株式市場の異なる側面を表していると言えます。

  • ダウ平均: 米国のいわゆる「ブルーチップ」と呼ばれる超優良企業の動向。歴史的な継続性を持つ指標。
  • ナスダック総合指数: ナスダック市場全体の幅広いトレンド、特にテクノロジー企業や新興企業の動向。
  • ナスダック100指数: 米国の大型ハイテク・グロースセクターのパフォーマンス。イノベーションを牽引する企業の動向。
  • S&P 500指数: 米国株式市場全体のパフォーマンス。米国経済全体の縮図とも言える広範な指標。
  • 日経平均株価: 日本の主要企業の株価動向。市場参加者のセンチメントを示す指標としても注目される。
  • TOPIX: 日本株式市場全体の広範な動向。特に見直し後は、流動性の高い中核的な銘柄群のパフォーマンスを示すようになる。

主要株価指数比較表

指数名算出方法構成銘柄数 (目安)選定基準(概要)市場フォーカス/代表性代表的なETF(ティッカー: 名称)
ダウ平均株価 (DJIA)価格加重平均30委員会による定性的選定(評判、成長性、代表性、業種バランス等) 米国の超大型優良企業(ブルーチップ)の動向DIA: SPDR Dow Jones Industrial Average ETF Trust
ナスダック総合指数時価総額加重平均約5,000-7,000ナスダック市場への上場 ナスダック市場全体の動向、特にテクノロジー・新興企業ONEQ: Fidelity Nasdaq Composite Index ETF
ナスダック100指数時価総額加重平均(リバランスあり)約100ルールベース(ナスダック上場、金融除く、時価総額上位、流動性等) 米国の大型ハイテク・グロース株の動向QQQ: Invesco QQQ Trust , QQQM: Invesco NASDAQ 100 ETF
S&P 500指数浮動株調整後 時価総額加重平均約500委員会による定量的・定性的選定(時価総額、流動性、収益性、セクターバランス等) 米国株式市場全体の動向、米国経済の縮図SPY: SPDR S&P 500 ETF Trust , IVV: iShares Core S&P 500 ETF , VOO: Vanguard S&P 500 ETF
日経平均株価 (Nikkei 225)価格加重平均(みなし額面調整)225日経新聞社による選定(流動性、セクターバランス) 日本の主要企業の株価動向、市場センチメント1321.T: NEXT FUNDS 日経225連動型上場投信 , 1570.T: NEXT FUNDS 日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信
TOPIX浮動株調整後 時価総額加重平均約1,700 → 約1,200旧東証一部全銘柄から、流動性・時価総額基準による選別へ移行中 日本株式市場全体の広範な動向、市場構造(見直し後は中核銘柄)1306.T: NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信 , 1348.T: MAXIS トピックス上場投信

8. まとめ

本記事では、世界および日本の株式市場を代表する5つの主要な株価指数、すなわちダウ平均株価、ナスダック総合指数、ナスダック100指数、S&P 500指数、日経平均株価、そしてTOPIXについて、その概要、算出方法、構成銘柄の選定基準、および連動する代表的なETFを解説しました。

これらの指数は、算出方法(価格加重平均か時価総額加重平均か、浮動株調整の有無)、構成銘柄の選定アプローチ(委員会による定性的判断か、ルールに基づく定量的選別か)、対象とする市場(米国か日本か、市場全体か特定セグメントか)、そして結果として代表する市場の側面(超大型優良株、ハイテク・グロース株、市場全体の動向など)において、それぞれ明確な違いを持っています。

価格加重平均型のダウ平均や日経平均は、歴史が古く知名度が高い一方で、値がさ株の影響を受けやすいという特性があります。対照的に、時価総額加重平均型のナスダック指数、S&P 500、TOPIXは、企業の経済規模を反映しやすく、市場全体の動きを捉えるのに適しているとされる一方、巨大企業の動向に左右されやすい側面も持ち合わせています。特にS&P 500とTOPIXは浮動株調整を行うことで、より投資実態に近い指数を目指しています。

株価指数は、現代の投資家にとって不可欠なツールです。市場全体のトレンドや特定のセクターのパフォーマンスを把握するための羅針盤となるだけでなく、自身が保有するポートフォリオの運用成績を評価するためのベンチマーク(基準)としても機能します。さらに、ポートフォリオ全体のリスクを管理したり、市場の変動に対するヘッジ戦略を考えたりする上でも重要な情報を提供します。

近年では、各指数に連動するように設計されたETF(上場投資信託)が数多く登場し、個人投資家でも低コストで容易に、指数を通じた分散投資を行うことが可能になりました。これにより、特定の市場セグメント(例:米国の大型ハイテク株、日本の市場全体など)へのエクスポージャーを効率的に得ることができます。

しかし、どの指数に連動するETFを選ぶかによって、その投資内容は大きく異なります。本レポートで見てきたように、例えば同じ「米国株指数」であっても、ダウ平均、ナスダック100、S&P 500では構成銘柄も算出方法も異なり、期待されるリスク・リターン特性も変わってきます。同様に、「日本株指数」である日経平均とTOPIXも、その性質は大きく異なります。

したがって、投資家は、それぞれの指数の特性、すなわち算出方法や構成銘柄の選定基準がもたらす意味合いを深く理解した上で、自身の投資目標やリスク許容度、市場観に合致した指数や、それに関連する金融商品(ETFなど)を選択することが、賢明な投資判断を行う上で極めて重要となります。

特に、現在進行中および今後予定されているTOPIXの大規模な見直しは、日本の株式市場および関連する投資商品に大きな影響を与える可能性があり、日本の投資家にとっては引き続き注目すべき重要な動向と言えるでしょう 。各指数の特性を正しく理解し、市場の変化に対応していくことが、これからの資産運用においてますます求められます。

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